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希釈冷凍機コンプレッサ交換

Air Liquid製の希釈冷凍機は,1Kポットがなくて便利なのですが,困った点がひとつあります. それは,使用しているKNFのコンプレッサのメンブレンが年数が経つとやがて割れて大リークを起こすことです. 当然ながら貴重な3He-4Heガスを逃してしまい,代わりに空気をトラップや冷凍機本体に 送り込んで悲惨な事故になります.最初は我々の機種の不良のせいと思っていましたが, その内,これはこのコンプレッサにすべて共通する欠陥だということがわかってきました.

メンブレンが割れた状態のKNFのコンプレッサ. 切れた所から指が覗いているのがわかりますね. KNFでは,このようになった場合のためにメンブレンのキットを販売しています. が,もちろん,逃げた3Heを補償してくれるわけではありません. このコンプレッサの良いところは,気体中にオイルが出て行かないことです. しかし,こんなに悲惨な状況になってしまってはどうしようもありません.

なお,以前やはり壊れた時に,どのようにして直したかについては,当時博士課程の学生だった 大塚くんが こちらにまとめてくれています.



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そこで,松下電器(当時)の方に頼み込んで購入したのが,この冷蔵庫用コンプレッサです. 極めて気密性が高く,メンブレンを使っていませんので破れる心配がありません. まだ,この頃は「大学の研究用なんですけど」と言って頼み込むと,渋々ながら こうやって販売してくれたり,場合によっては「研究用ということなら」と 無料で提供してくれたりしました.色んな意味で余裕があったように思います.

こんなに小さくても(隣のシールポンプと比べてください)能力的には十分でした.3つのチューブの内,2つは吸込口で, サクションラインは冷蔵庫では冷媒を入れた後潰してシールしてしまうのでしょうが, 希釈冷凍機用にはガス量調整のためのラインに調度良いので,残してあります. これらは銅パイプでφ8だったため,市販の真鍮製食い込みつなぎにステン管を銀蝋溶接したものを 接続しました.加圧ラインはφ7の銅パイプで,5barにもなるところなのでM7のネジを切り, やはり真鍮でM7の雌ねじを作ってステン管を銀蝋溶接したものをねじ込んだ後,半田で溶接しています. 全体をHeリークディテクターでチェックし,加圧ラインが10barになってもリークしないのを確認しています.

家庭で使えるものですから当然ですが,運転音は静かで振動もほとんど感じません(ユニットが中にスプリングで 吊るしてあるようです.持って動かすと,中でなにか動いている感じがします). 運転中も手で触って少し暖かい位しか熱が出ません.



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型番は右のように,SF43C76RA00でした.R134a冷媒用ですね. 松下の方は,親切に,村田製作所の起動用・保護用リレー PTC (サーミスタ) 7M4R7Mを付けて出していただいたので, (まあこれがないと回せなくて困ったわけですが)配線も問題なくできました(今は,配線確認のためカバーを外した状態). KNFのコンプレッサを載せていたブッシングの間にぴったり入ってうまく固定できました. オイルを使っている点だけが問題ですが,0.3Bar以上の粘性流ですし,液体窒素トラップが入っていて まず問題にならないと思います.



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上の機器類は希釈冷凍機の外部配管.こちらはシールドルームの中の 希釈冷凍機本体を収めたHeデュワーです.Heトランスファー中のため,回収配管が白くなっています. これ以外に,測定器類がどっさりと必要です.



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コンプレッサの置換のために無くてはならない機器類.手前は,交換工事中に3Heガスを回収して蓄積しておく, シールタンク付きのシールポンプ.ポンプはアルカテル製.その他は自作です. 200V3相で,移動の度に電源の繋ぎ替えが面倒なので,インバーターを入れて,100V単相から作り出しています. 向こう側はPfeiffer製のHeリークディテクター.古い機種ですが,四重極質量計を使っていて非常に高感度です.



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実は,これ以外にもKNFのコンプレッサは3台も使用されています. 一番左が現時点で故障しているもの.できればこれ以外も全部冷蔵庫用で交換したいところです.



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勝本研究室
東京大学物性研究所