実験設備

1. 薄膜製造装置

分子線エピタキシー装置

分子線エピタキシー(MBE)装置は,超高真空中で加熱基板上に分子を蒸着し,1原子層レベルで制御した薄膜結晶成長が可能です.当研究室のMBEは,クリーンルーム内に設置され,液体窒素は室外から自動供給されるようになっています.

Riber社製MBE
写真は,Riber社の製品で,2成長室を持ち,これらが超高真空トンネルで結合されています.一般的なIII-V族半導体の成長用MBEです.
日本Vieetech社製MBE
写真は,日本Vieetech社の製品(と言っても当研究室特製です)で,III-V族ではありますが,MnやSbを飛ばせる,やや変わり種のMBEです.磁性半導体の研究に使用しています.コントロールは,Maxim Zalalutdinov研究員(当時)の完全手作り品(NI社からプログラムコンテストに出すことを勧められた傑作.出しておけば良かったと思います)です.

真空蒸着装置

上記MBEも真空蒸着装置の一種ですが,もう少し簡便な装置も用途に応じて多数使用します.

イオンビームスパッタ装置
とても良く使用される,イオンビームスパッタ装置です.スパッタで飛ばすと通常,分子の飛ぶ方向が広がっているためリフトオフ工程が難しいのですが,イオンビームスパッタでは比較的方向が揃っていてかなり微細なリフトオフが可能です.(家研究室所属品)
その他様々な真空蒸着装置
金属,超伝導体,磁性体など様々な物質を真空中で蒸着するための装置類です.抵抗加熱で蒸発させるもの,電子ビームで加熱するもの,スパッタで飛ばすものなど様々です.また,蒸着した後希薄な酸素を導入して表面を参加したり,蒸着の角度を変えるために試料基板を傾けたりする機構が組み込まれたもの,などもあります.

2. リソグラフィー装置・試料加工装置

電子線描画装置

細く絞った電子線を試料表面にスキャンします.出てくる2次電子を観測すれば通常の走査電子顕微鏡として使用できますが,以下はビームを更に細かく自在に制御し,試料表面にコートした有機物などの膜を変質させ,これにより微細加工を行います.

Elionix社製ELS7700
加速電圧75 kVを使用することで,細い線(現在の記録は10 nm)を引くことができ,描画ステージを移動させた時の精度も,レーザー干渉ステージを使用して100 nm以下を達成可能です.当研究室描画装置の中でも最も使用頻度の高い装置です.
日本電子(JEOL)社製FE4000
JEOL社の冷陰極放射SEMをベースに,クレステック社,サンユー電子社の協力で,ステージ・デフアンプ系を完全改造して描画装置にしたもの.冷陰極ながら,デフアンプの改良により20 nmの細線を描画できます.また,冷陰極のため,加速電圧を落としてもビーム径がそれほど広がらず,低加速すなわち低侵襲で細かな描画ができるのが特徴です.世界でも数少ないタイプの装置だと思います.リニアエンコーダステージで,かなりの精度があります.また,当然,観察像はとてもきれいです.
Elionix社製ELS3300
LaB6加熱式電子銃を持つ,大きなビーム電流をとれる描画装置.私(勝本)の物性研着任以来大活躍し,改造に改造を重ねました.今ではElionix社では製造終了となり,骨董品ということですが,まだまだ,大抵の試料は描画できます.リニアエンコーダステージで,レジストレーションもちゃんと可能です.

フォトリソグラフィー装置

Elionix社製ELS7700
キセノンランプ露光装置,マスクアライナを研究室の皆さんによる手作りの「黄色い部屋」に入れたもの.電子線リソグラフィーによるCrマスクを使用することで,10 μmまでの描画は問題ありません.頑張れば5 μm以下の描画もできるようです.

走査トンネル・原子間力顕微鏡

Bruker(元はVeeco)社製Innova
元々はDigital Instruments (DI)社が開発し,Veeco社が販売していた時に購入したもの.そうしたら今度はVeecoがあっという間にSTM部門をBruker社に売ってしまいました.
製品自体は,ピエゾステージの可動範囲が広く,観察にも便利です.主目的は陽極酸化を用いた微細加工で,このため装置全体をカバーに入れて加湿/除湿機を使って一定湿度での動作ができるようにしています.
2011年7月,故障で使えなくなりましたが,色々な経緯を経て10月,再び使用可能になりました.
SII社製SPA300
これもELS3300同様,長く働いてくれている装置.会社の名前は長くなりましたが要するにセイコーの製品.コントローラを交換,MFM機能を追加しました.

その他の加工装置・形状観察装置

超音波ボンダー(WestBond社)
金線やアルミ線を試料表面上で超音波の集中により溶かして接触させる装置.LSIの組み立て工程で物凄い勢いで自動配線している様子をTV等でご覧になったことがあると思いますが,あれの「1本1本手動」版です.色々なメーカーのものが出ていますが,この伝統あるWestBond社のものは「使える」装置です.
ゴールドイメージ炉
フォーミングガス雰囲気中でイメージ法により赤外線を集中させ試料を加熱する装置です.試料や金属電極のアニールによく使用します.(家研究室所属品)
なお,アニールにはこの他,勝本謹製の半田ごてを使った加熱装置(というほどのものではない)も良く使用します.
レーザー顕微鏡
キーエンス社製.光学顕微鏡ですが,レーザー光の干渉を使用して深さ方向に高精度(10 nmオーダー)の測定ができます.横方向もμmオーダーですが測長できて便利です.

3.低温・磁場環境発生装置

量子効果の測定に低温の環境は欠かせません.液体He温度4.2 K以下,あるいは1 K以下の低温を手軽に得るため,希釈冷凍機を始め,様々な冷凍機を使用します.また,時間反転対称性を破り,固体中に磁気長という有限の長さを持ち込む外部磁場は,多くの「新しい宇宙」を固体中に作り出します.超伝導で比較的手軽に得られる7-15 Tのマグネットを多数用意し,上記冷却装置をこれら磁場中で動作できるようにしています.

希釈冷凍機

AirLiquid社希釈冷凍機+AMI社12Tマグネット
AirLiquid社のプラスチックミクサ希釈冷凍機をAMI社の12Tマグネットに入れて使用しています.到達温度は45 mK.デュワーの液体Heの持ちが良く,永久電流モードであれば,1週間Heをチャージせずに済むので大変便利です.
AirLiquid社の希釈冷凍機は,1-Kポットがなく,JT弁で3Heを液化する方式です.大変便利ですが,稀にコンプレッサのメンブレンが破れることがあります.現在は,コンプレッサトラブルを防ぐため,液化が終わって供給圧力が+1barを切ったところでコンプレッサを止め,スクロールポンプの背圧で押しこむようにしています.(上は配管系)
AirLiquid社希釈冷凍機+AMI社7Tマグネット
AirLiquid社の希釈冷凍機をAMI社の7Tマグネットに入れて使用しています.到達温度は30 mK.このデュワーは言わば「ホーム」ですが,この冷凍機はφ45 mmと細くて大抵どこへでも挿入できるので,後述の15Tマグネットやベクトルマグネット,また場合によっては液体He容器に直接挿入して運転することもできます.近年、低温のまま試料を回転させられる機構を自作して搭載しました(次の動画をご覧ください).
試料X軸まわり 試料Z軸まわり
パルスチューブ式希釈冷凍機
大陽日酸社製.ただし,ヘッドはAirLiquid製.パルスチューブ(PT)冷凍機は住友重機製.自動コンデンス機構は阿部助教(当時)の手になるものです.スイッチポンで,2-3日待つと100 mK前後まで冷えてくれます.1 T弱出せるマグネット(常伝導)に入っています.PT冷凍機の音がうるさいのがちょっと難点ですが,ミクサに置いた試料にはほとんどノイズ等の影響は,今のところありません.むしろ周りで影響が出たりしました.
CryoConcept社製希釈冷凍機
AirLiquidのものと基本的に同じですが,自動コンデンス機構がついてとても便利.また,断熱真空管径が大きく(φ60 mm)て試料スペースがたっぷりと取れます.デュワーは,Oxford社製で,5 Tのマグネットが入っているもの(液体窒素を要する)と,勝本謹製の0.1 Tしか出ないマグネットが入っているもの(液体窒素なし.Heは3日弱持つ)と2つ用意しています.(家研究室所属品)
トップロード型希釈冷凍機+15Tマグネット
Oxford社製.15 Tのマグネットを持つデュワーに入っていて,常時液体Heで冷却し,試料部分を交換できる非常に便利な冷凍機です.試料冷却もプログラムで自動化されています.10 mKを切る冷却が可能.試料ヘッドは試料回転ができるもの,マイクロ波が導入できるものなど色々と用意されています.(家研究室所属品)

GM冷凍機

GM冷凍機+1T回転マグネット
長瀬産業社製GM冷凍機とハヤマ社製1T回転マグネットの組み合わせ.冷凍機は6-8Kまで2時間くらい.1T回転マグネットは,180°回転がコンピュータ制御できるので,磁気抵抗の異方性測定などに威力を発揮します.更に液体Heをチャージしてポンプすることで1.5 Kまで行くはずですが,今のところこれにはチャレンジしていません.
光学測定用GM冷凍機
3箇所に光学窓を備えたGM冷凍機.冷却は速く,4 Kまで2時間以内に到達します.長瀬産業製(クライオはダイキン製).
簡易伝導測定用GM冷凍機+0.2Tマグネット
6 Kまで大体2時間くらい.小さなマグネット付きで,簡単な伝導度,キャリア濃度(移動度)測定に便利.
簡易伝導測定GM冷凍機+0.2T簡易磁気共鳴マグネット
家先生製作! クライオはダイキン製.マグネットは何と家先生が廃棄品から再生させた物!20 Kまで大体2時間くらい.液体Heを入れることで2Kまで実験できる.上と同様,小さなマグネット付きで,簡単な伝導度,キャリア濃度(移動度)測定に便利.更に勝本謹製の変調コイルが巻いてあり,強磁性共鳴なども一応できます.(家研究室所属品)

超伝導マグネット

超伝導マグネットについては,冷凍機との組み合わせですでにかなり紹介してきました.まだ紹介していない2個(これ以外にもあります.手巻きのも色々とあります)を紹介しておきましょう.

15Tマグネット
Oxford社製.λプレート排気で17 Tまで出すことができます(この機能の使用は少し面倒でHe消費も多いのでたまにしか使いませんが).これも古参の装置です.専用の温度可変クライオスタット.家先生特製の精密2軸試料回転クライオスタット,それに写真に使っているAirLiquid製希釈冷凍機など,様々な冷却装置を挿入して使うことができます.(家研究室所属品)
光学マグネット
Oxford社製.大きな光学窓(φ50)を備えた7 T(λプレートにより8 T)のマグネット.1.5 Kまで測れるインサートが付いています.

4.測定装置

当研究室の主力測定は何と言っても電気伝導です.電流を流して電圧を測る,あるいは電圧を印加して電流を測る,簡単ですね.でも,色々と面倒なこともあります.また,磁場や高周波,光,ゲート電圧,パルスゲート電圧,など,パラメーターを沢山使用します.これらの測定のための装置を一部紹介しましょう.また,この他にも光学応答や,磁気測定なども大切です.

DC〜低周波測定

抵抗ブリッジ
ロックインアンプ,定電圧(電流)電源,差動アンプ,標準抵抗などをすべて内蔵し,2端子をつなぐだけでまるでテスターのように抵抗値を出してくれる便利な装置.極低温測定のため,測定パワーをfW台まで落とすことができます.
写真上はElectronikka社AVS-47:何台も所有しています.極低温域での抵抗温度計測定に最適.
写真下はLinearResearch社LR-400低抵抗測定時の安定度は抜群で超伝導測定に向いています(家研究室所属品).
ロックインアンプ
様々な測定に欠かせない位相敏感検波機能を持った増幅器.アナログのものを中心に,一体何台持っているのか良くわからないくらいあります.大体200 kHzまでのものですが,周波数エクステンダで2MHzまで拡張する装置もあります.また,50 MHzまで使用できるものも1台だけですが所有しています.
上:NF回路製LI-575
中:NF回路製ディジタルロックインアンプ
下:PAR社124A
ディジタルボルトメーター
これまた測定の定番.略称デジボル!(マルチメーターだから,と「デジマル」という人もいる.いずれにしても外国人には通じないでしょう.)昔のものはディジタルポンプアウトノイズがひどく,測定系に直接接続すると現象を壊したり,系の温度が上昇したりと悲惨なことが起こっていましたが,ここ10年くらいのものは,入力アンプが改善され,高周波フィルタを通して使えばあまり問題ありません.が,やはりGPIBなど電流をたくさん取るディジタルインターフェースが繋がっているのは心配なので,原則電磁シールドルームの外側で,壁に埋め込んだローパスフィルタ通しでアナログアンプの出力などローインピーダンス信号源の電圧をディジタル化するのに使っています.何台あるのかわかりません.20 ch,10 chのスキャナーを持つものもあります.
半導体パラメーターアナライザー
略して「ハンパラ」!うーん,ですが,メーカー(Agilent)の人がこう呼ぶのでまあ,従っておきましょうか.昔で言うカーブトレーサのディジタル版です.写真上はPCが組み込まれていて画面に特性が表示されます.下は別にPCを用意してこちらからコントロールするもの.ゲート電圧印加にも使用しています.
ゲート,ソース・ドレイン電圧用電源類
「ハンパラ」は便利ですが,量子デバイスの場合,6つも7つもゲート電圧を加える場合があり,更にソース・ドレインにも精密制御した電圧が必要になり,流石に追いつかない場合も出てきます.またやはりポンプアウトノイズも気になります.そこで,写真のような個別電源を良く使用します.下はAgilent製の6ch出力のもの.上に2台あるのは世界的にも良く使用されている横河電機製7651.これも相当数所有しています.最近出た新型は本当にポンプアウトノイズが少なくて驚きました.この他にNF回路製の「Wavefactory」系のものも変調可能な電源として良く使用します.

高周波測定

オシロスコープ・波形発生器
これまた測定器の常番.測定中は常にオシロスコープで信号波形を観察する習慣をつけてもらいたいものです. アナログ・ディジタル色々と用意していますが,写真上はTectronix社製の20 GHz波形が観察できる戦艦大和的オシロ.下はAgilent社製の7 GHzまでの任意波形発生器.これ以外に1 GHz,640 MHzのものがあり,5 MHzまでだとWavefactoryのものが多数使えます.
標準信号発生器,スペクトルアナライザ
高周波実験になくてはならないのが標準信号発生器,いわゆるSGです.写真上は2 GHz - 26 GHzのSG,下は20 GHzまでのパワースペクトルを測定するスペクトルアナライザです.(いずれもAgilent社).SGとしては,下にある40 GHzのもの,2 GHz - 6 GHzのPLLを使った波形のきれいなもの,0.01 - 2 GHzの標準的なもの,など多数用意しています.
ベクトル・ネットワーク・アナライザ,標準信号発生器
写真下は8 GHzまでのベクトルネットワークアナライザです.接続されたマイクロ波回路のSパラメーター(S行列)を複素数で取得することができます.写真中は40 GHzまでのマイクロ波発生が可能なSG.様々な変調波を発生させることもできます.写真上は標準的な2 GHz SG.

光学測定

フォトルミネッセンス測定装置
Arレーザー,半導体レーザー(市販の素子を旭データシステムズの温度コントローラー,ドライバにセットし,コリメータでコリメートしたもの),分光計器のCT-25,GaAsのPMとNF回路のチョッパ,ロックインアンプを組み合わせた簡単なもの.GaAs系の素子はよく光るのでこれでもそこそこのデータが取れます.
紫外可視近赤外吸収分光光度計
日本分光V-670.吸収の大きな基板の上の薄膜でもかなり良いデータを取ることができます.成長した薄膜の組成を調べるのに適しています.

磁気測定

SQUID帯磁率計
Quantum Design社製.高感度で全自動の便利な帯磁率計.(Ga,Mn)Asの20 nmの薄膜の磁気ヒステリシスを明瞭に測定できたのには驚かされました.(家研究室所属品)