訳者あとがき この本の英語原著が世に出たのは,1995年のことである.訳者の1人(TS)が恩師Cardo na教授から日本語版出版の相談を受けたのは,その約1年後であった. 数ある半導体の教科書の中で,本書が非常にユニークなものになっている第一の理由は, 2人の著者が分光の専門家であることである.発光やラマン散乱,光電子分光などは,半 導体材料の評価や開発において避けて通れない手法であるが,普通の半導体の教科書では ,必ずしも十分に書かれていない場合が多い.これらの話題についても十分なページ数を 使って,どのような物性がどのような実験から分かってきたかが,理解できるように書か れている.また,随所に著者の独特な物理的洞察が加えられているので,研究者レベルの 読者にとっても興味深いであろう. この本の第二の特長は,実験と理論の両刀使いである著者ならではの,プラグマティック な記述である.たとえば群論的な取り扱いにおいても,退屈な一般論は避け,閃亜鉛鉱型 とダイヤモンド型半導体に限定して具体的に議論している.練習問題にも,パソコンを使 って簡単なバンド計算をさせるなど,実戦にすぐ役立ちそうなトレーニングが盛り込んで ある. 果たして,この種の本にしてはめずらしく,出版以来ドイツとアメリカでは相当部数が売 れており,すぐに小修正を加えたソフトカバー版が出た.更に出版後に発見された誤りを 訂正した第2版の出版準備が現在進行中であり,この日本語版は,図らずも,実質上の原 著第2版の翻訳として,同時出版ということになった. 原著のもう1つの特長は,レイアウトの工夫と異例の高品質印刷である.日本語版は単色 刷りではあるが,図や数式に関しては元のファイルをかなり生かしているので,明瞭さと 正確さは,損なわれていないと信じている.また読みやすさや理解を助けている,枠囲み や網かけなどの原書のレイアウトをなるべく再現した. 原著に関する情報(最新の正誤表や問題の解答など)がWebサイト(「第2版への序」を 参照)にあり,読者にとって大変便利である.日本語版でもこれを踏襲し,Webサイト ht tp://www.issp.u-tokyo.ac.jp/handoutai に最新情報を掲載する(掲載内容については順 次整備していく予定である). 最後になるが,表紙カバーの図や,訳語,内容について相談にのって下さった多くの友人 知人,そして日独のシュプリンガー・フェアラークの方々に感謝する. 1998年秋 末元 徹 岡 泰夫 勝本信吾 大成誠之助