本章の「匠」(ごく一部)

「量子の匠」練習帳

「量子の匠」の初期の頃の原稿には,「匠」達の実験室を簡単に紹介するコーナーを付けていました. しかし,筆者の遅筆のため,書いている際中に匠たちが異動してしまったりして,「これはいかん」 ということで,削ってしまいました.一部の方々について,章別に紹介しておきたいと思います.

外村彰 博士

データの使用許可をいただいた時はもちろんお元気でしたが,大変残念なことに 2012年5月に逝去されました.フランクリン・メダルも獲られてノーベル賞候補でもあったと思います. 突出したコヒーレンス性を持つ電子線を作り出され,「もっとも美しい物理実験」を遂行される あたりは,まさに「量子の匠」の名にふさわしい方だったと思います.

筆者は,外村先生とは会議で顔を合わせる程度でしたが, 低温物理国際会議での全体講演のお手伝いをしたことで,感謝していただき,サイン本をいただきました. また,筆者の勤める物性研究所では,英国でされたファラデー講演を日本語で再現していただき, 聴衆の前で色々な実験を披露される姿は,確かにファラデーの再来のようにお見受けしたものです.

小森文夫 教授

小森先生は,筆者の同僚でもあり,実は院生の頃の研究室の先輩でもあります. 低温物理の研究者でしたが,物性研究所では表面物理に進まれ,双方の分野に明るい,意外に数少ない 「匠」です. 図1.3は,そんな小森研究室で見つかった大変面白いデータの1つ.

鳥井寿夫 准教授

鳥井先生は日本で初めて中性原子気体のボース・アインシュタイン凝縮の実現に成功された, 素晴らしい実験家です. 不肖私,鳥井先生の博士論文の主査などを勤めさせていただき,大変勉強になりました. 本書では,図1.5,それから,少し先になりますが,図6.8にもデータを使用させていただきました. 美しい実験結果が次々と発表されるこの分野ですが,これを実現する舞台裏はノウハウの塊で, しかし,それらもちゃんと物理的な考えで裏打ちされています. 「匠」には腕と頭の両方が必要,ということの好例です.