単電子トンネル実験

「量子の匠」練習帳




電子は粒である

このページは,本書7ページの,「電子は粒である」の実験を 少しわかりやすく体験してもらおうと思って作ったアニメーションです.

本書では,アルミニウムを使った単電子回路の例を挙げていますが, ここでは,もうちょっとわかりやすく,検出器に第7章で紹介した量子ポイントコンタクト(QPC) を使い,1個の電子が出入りする先を104ページで紹介した量子ドットにしています.

まだそこまで読んでない,という方,QPCは電気を流す導体を電子の波長くらいまで細く絞ったもので,要するにくびれた所の電場に敏感に応答する 検出器と思ってください.量子ドットは小さな導体の粒で,トンネル接合を通して大きな導体とつながっています. また,ここには「ゲート」と書かれた電極もあります.この電極はオレンジ色をしていますが,負に帯電していますよ,という意味です. このような実験系は実際に筆者の実験室でも頻繁に使用しています.ただし,この「実験系」では,ゲートの位置が調整できるようになっていますが, 実際の実験ではゲートに電源をつないで適当な電圧を印加するようにします.

まず,「ドット荷電」のボタンを何度も押してみてください.押すたびにドットの色がオレンジと青とに変化すると思います.これは,ドットに電子が 出入りする様子を表しています.「ランダムな荷電」の「スタート」ボタンを押すと,オレンジと青とがかなりでたらめに移り変わるはずです. これは,確率的に生じるトンネル過程によって時間に対してランダムに電子が出入りするためです.「ストップ」ボタンを押すと,どちらかの状態で 止まります.「ドット荷電」ボタンでの切り替えは,この時点でも可能です. 「ゲート」の下のスライドバーを動かしてみてください.ゲートの位置がこれにつれて動くはずです.

以上で準備ができていることが確認されましたので,「測定」ボタンを押して測定を開始しましょう.時間に対してデータが赤い線で描かれます. それらしくノイズを付けるようにしています.この縦軸のデータは,QPCの電気抵抗ですが,要するにQPCの所に外部から加わる電場を反映しています. 最初にゲートの下のスライドバーを動かしてみましょう.ゲートをQPCに近づけると抵抗が高くなってデータ線は上の方へ連続的に移動するはずです. これは,このようにQPCが電場に敏感で,ゲートのようなマクロな物体の空間位置のような物理量が連続的に変化しうることを表しています.

次に,測定状態でドット荷電状態をボタンで切り替えてみてください.データは不連続に2つの決まった値の間をジャンプするはずです. これは,電子が粒子であり,電子によるQPCの所の電場が量子化されていることを示しています.実際の実験では電子のトンネルをこのように完全に制御する ことはできません.「ランダムな荷電」のスタートボタンを押すと,ドットが例によってでたらめに青とオレンジに切り替わって図1.6と良く似たデータが得られると思います. ここは,(言わんとする所はわかっていただけると信じていますが)一体どんな実験がされているのかわかりにくいかと, ちょっと心配だったので,簡単なアニメーションですが,参考になれば幸いです.